2024年9月

論文
■公的リバースモーゲージの問題点と課題

構成 

近年、日本人の平均寿命の延伸と核家族化の浸透は、高齢期の生活スタイルを大きく変貌させている。老々介護世帯が増えて、さらに在宅介護の限界性から施設介護に移行する世帯数も増加傾向にある。持家の管理処分が難しい高齢者世帯の場合は、持家の空き家化リスクや保有負担による負債化リスクも想定される。日本の戦後の戸数主義ともいわれた絶対戸数の不足解消の住宅政策の成果でもあるのだが、持家高齢者世帯は8割強である。しかし、長命化と単独・夫婦だけの世帯数の増加から、高齢者の持家の空き家が全国的に問題化していることから、こうした事態を予防・回避する政策的後押しの必要は蓋然的といえる。持家高齢者世帯に、終身在宅を保証しながら、その経済的価値を生活資金(年金)に流動化させて、死後一括代物弁済するリバースモーゲージの仕組み(リバーシブル・システム)は、きわめて合理的であり、空き家問題予防の効果も期待できる。しかし、日本の金融機関が扱っているリバースモーゲージの多くは、あくまでも戸建て住宅(土地)を対象にしたローン商品であり、営業エリア内に限定した金融商品である。したがって、都市圏に居住する富裕層向けの感が強く、地方圏では制限的である。こうした実態を鑑みるとき、公的リバースモーゲージへの社会的期待(需要)は大きいはずだが、社会福祉協議会が扱う厚生労働省の生活資金貸付(公的リバースモーゲージ)はあまりにも高齢者世帯の生活実態と乖離した非現実的な制度設計であり、ほぼ形骸化を呈している。第1章と第2章で、高齢者世帯の生活実態と公的リバースモーゲージの社会的必要性を論証し、現行制度の問題点と課題について論究している。
第3章では、公的リバースモーゲージについて、現行の不動産(土地)担保型金銭消費貸借貸付(契約制度)とは別に、一般低所得者世帯向けの「住まいの年金化契約」の措置制度を新たに設けるべきと論断している。その論拠として、80代後半から始まる老人性疾患(認知症、パーキンソン病、他)による自立生活能力の減退や家族介護力の限界性から始まる施設入所、持家の処分等々の問題化が挙げられ、その支援・救済措置と目されるのが新たな公的リバースモーゲージとなる「住まいの年金化契約」であり、その制度効果であると論断している。さらに、「住まいの年金化契約」の制度概念となる「居住福祉権」や持家の「現存性価値」についても概説しながら、さらなる超高齢社会を見据えた日本の公的リバースモーゲージの在り方に及び、その「試案」も提言している。
第4章では、日本の既存(中古)住宅市場を概観し、その取引動向についても概説している。単独・夫婦だけの高齢者世帯の増加とマンション市場との連関性、また、中古住宅の需要動向から読む担保評価基準の見直しなども論究している。また、アメリカの公的リバースモーゲージ(HECM)の制度基盤や制度設計などとの比較から、中古住宅の制度的サスティナビリティについても、新たな視点をもつべきと論じている。

以上を総括すると、日本人の長命化と単独・夫婦だけの高齢者世帯の増加、老後の自立生活の限界性等々から推して、高齢者世帯の持家の自己年金化契約(公的リバースモーゲージ)の社会的必要性は蓋然的であり、新たな居住福祉制度として確立すべきと結論できる。

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