■空き家問題は住宅政策のターニングポイント

空き家問題は住宅政策のターニングポイント

令和5年の総務省の「住宅・土地統計調査」では、日本の総住宅数はこれまで一貫して増加しており、2023年10月1日現在で過去最多の6502万戸である。総空き家数の方も、やはり一貫して増え続けており、1993年から2023年までの30年間で約2倍の900万戸で過去最多、空き家率も過去最高の13.8%である。総住宅数と総空き家数が、同軸的に、一貫して増加傾向にある住宅市場の現状は、既存(中古)住宅の循環性(流通性)が脆弱な新築偏重の市場であり、人口減少と高齢化に伴って空き家数はさらに増加するものと推測できる。こうした実態は、無制限的な新築市場を形成してきた住宅政策の失策に因る“付け”であり、政策転換のターニングポイントであると示唆している。

令和4年の新設住宅着工で地域別戸数を概観すると、首都圏の総戸数は増加、次いで近畿圏も増加、中部圏やその他の地域では減少傾向である。しかし、マンションの増加は各地域に共通している全国的な傾向であり、世帯の集住(マンション居住)傾向が明らかである1)。マンション居住世帯の増加は単独世帯数の増加と連環していて、65歳以上の単独世帯数の増加も顕著であることから、2040年には約40%に上るものと予測されている(総務省)。となると、マンションの空室化現象も近い将来問題化する懸念は現実的であり、さらに進化させた空室予防対策の構築は喫緊の課題となってくる。

空き家の増加現象は全国的傾向ではあるが、総務省の同調査によると、和歌山や徳島の空き家率21.2%に対して沖縄9.3%であり、地域の人口動向や住宅市場の属性などが空き家率と密接な関係にあることを示唆している。コロナ禍以降、静岡県伊豆半島の海に面した地域に都市圏からの退職者世帯が移住する動きがある。伊豆方面は高齢者世帯が多く、空き家も増加傾向の地域であったのだが、最近、海と山に囲まれた自然環境に惹かれて移住する退職者世帯が増えてきていることから空き家も徐々にだが減少している。住まいを売却して移住しなくても、二地域居住のライフスタイルならば異なった生活環境やコミュニティも二元的に体験できることで健康的で文化的かつ快適な暮らしが体現できる。さらに、二地域居住の場合は、都市圏と地方圏の双方の住宅市場に実需を喚起させるハイブリッド効果も期待できることから、合理的で効果的な空き家対策となる公算が大きい。

令和5年の国交省の「我が国の空き家の現状と最新の政策動向について」によると、空き家の取得は相続による取得者が55%、その6割が65歳以上の世帯主である。将来的にも利用意向のない「空き家にしておく」との回答が約3割、将来的な「賃貸・売却」の意向の空き家所有者は2割超であり、そのうちの約4割は賃貸・売却等に向けた活動は何もしていない。同資料からも明らかだが、相続した空き家の利活用は総体的に不活発であり、建物を取り壊すと固定資産課税を6倍に戻す税制も“重し(負担)”となっている。例えばだが、建物を取り壊して更地にした土地を、その後、宅地として使用しない場合は「非宅地」として課税する。しかし、将来、宅地化する場合は、その期間の課税減額分を納付するといった措置が講じられたならば空き家の解体は進むはずであり、一考に値する。

憲法第29条では、1項で財産権を保障しながらも、2項と3項で、財産権も社会的、合理的な拘束を受けることを定めている。空き家法が、私財である空き家に社会的、合理的な拘束を課すことは評価できるのだが、その措置効果が薄いのは「出口対策」だけで、空き家の問題化を予防する「入口対策」が欠落しているからである。国交省は、2024年度中にも建物の空き家化を自治体が持つ水道の使用状況などから判定するシステムを開発して隠れた空き家の不動産取引を後押しする目論見がある。だが、個人の住宅の使用状況が公的資料から判定されて公開されることに法的問題はないのだろうか。空き家を狙った犯罪を誘発するリスクが想定されていない拙速な「出口対策」であり、慎重な検討を重ねるべきである。

本稿でいう「入口対策」とは、持家高齢者世帯の自発的な「住まいの終活」の取り組みであり、それを後押しする誘導的な行政支援全般の総称である。稿者は、「住まいの終活」スキームの1つに、老後の「ヒト・イエ・カネ」をマッチングする「住まいの年金化🄬」のスキームを推奨していて、リバースモーゲージはその典型である。リバースモーゲージは不動産担保型金銭消費貸借契約であり、利払いは毎月だが、元金は死後一括の代物弁済プランならば、高齢者(債務者)が亡くなった後に債務や空き家は残らない。セール・リースバック契約の場合も空き家は残らない。また、住まいを、相続ではなくて、セール・リースバック契約や不動産型終身年金契約2)などを家族と結ぶ方法もやはり「住まいの年金化」のスキームといえる。

また、最近、利用者が急増しているリバースモーゲージ型住宅ローン「リ・バース60」も「住まいの終活」スキームであり、本人が亡くなった後に債務や空き家を残さない。

国が、新築主流の住宅政策から転じて既存住宅取引の活発化に取り組む、住宅地のスプロール化を封じる、高齢者の住まいの年金化(公的リバースモーゲージ)を後押しする、高齢者の持家負担を軽減する等々の政策転換に踏み出すならば、全国的な空き家増加現象も収束に向かうはずである。


1) 資料:国交省令和4年「建築着工統計調査」。

2)倉田剛(2012)『居住福祉をデザインする』ミネルヴァ書房 p156.